7芸術論 創作の技巧、素材、様式

五 創作の技巧、素材、様式

次に、創作の要件と関連した創作の技巧、素材、様式に関して説明する。

技巧と素材

原相において創造の二段構造とは、目的を中心として内的性相と内的形状が授受作用してロゴスが形成され、次に目的を中心としてロゴス(本性相)が形状(本形状)と授受作用して被造物が造られるという二段階の構造のことである。人間の創造活動も、すべてこのような過程を通じてなされる。例えば工場で物を作るとか、農民が田畑を耕すとか、学者が研究したり発明することなどは、すべて創造の二段構造に従ってなされるのである。

芸術作品の創作の場合もそうである。内的四位基台の形成については、主体の要件においてはすでに説明した。すなわちモチーフ(目的)を中心として、内的性相(知情意)と内的形状が授受作用して構想を作り上げることが内的四位基台の形成である。次に内的四位基台形成によってできた構想に従って、素材を用いて作品を作り上げるのであるが、これが外的四位基台の形成過程である。すなわち外的四位基台はモチーフ(目的)を中心とした性相(構想)と形状(素材)の授受作用によって形成されるのである。外的四位基台の形成において、特殊な技術または能力が必要であるが、これを創作における技巧という。

次に作品を作る際に必要となる素材について説明する。素材には性相的な素材すなわち表現対象としての素材と、形状的な素材すなわち表現手段としての素材がある。性相的な素材のことを題材(subject)という。小説を書くに際しては、架空のことにせよ、あるいは実際にあったことにせよ、作品の中に描かれる行為や事件が題材である。絵画の場合には人物や風景などをいう。したがって題材は、主題の内容を意味する。

形状的な素材すなわち物理的な素材のことを媒材(medium)という。彫刻であれば、ノミとか、大理石、木材、ブロンズなどの素材が必要である。絵画においては、絵の具やカンバスなどが必要である。芸術家は作品を造るに際して、このような物理的素材の質と量を決定し、具体的に創作を始めるのである。

このように創作においては、まず構想を作り上げ、次に一定の材料を用いて構想を作品に仕上げるのである。このような過程を創作の二段構造という(11)。創作における二段構造を図示すれば図7—2のようになる。

創作の様式と流派

創作の様式とは芸術的表現の方式のことをいうが、これは要するに創作の二段構造をいかなる方法で形成していくかという問題である。その中でも、とりわけ内的四位基台の形成をいかにするかということ、すなわち構想の様式が基本的なものとなる。内的四位基台はモチーフ(目的)を中心にして内的性相(知情意)と内的形状(主題)が授受作用して形成される。したがってモチーフ(目的)が違えば、作品は全く違うものとなる。モチーフ(目的)が同じであっても、内的性相が違えば作品は違ってくる。また内的形状が違っても作品は違ってくる。すなわち内的四位基台の中の三つの位置に立てられる定着物の違いによって結果(構想)は違ってくるのである。言い換えれば、この三つの定着物のうち、一つでも違えば、形成される構想は異なり、その結果、作品も異なったものとなるのである。

このような過程を通じて生まれる創作の多様性から、いろいろな創作の様式(style)が形成される。流派(school)もその一例である。次に、歴史的に現れた代表的な流派を見てみよう。

① 理想主義(Idealism)

これは人間または世界を理想化して、調和のとれた理想の美を表現しようとする立場である。十六世紀のルネサンス時代の芸術家の多くが理想主義的であったが、ラファエロがその代表である。

② 古典主義(Classicism)

ギリシア・ローマの芸術の表現形成を範とする十七—十八世紀の芸術傾向をいう。形式の統一性、均衝を重んじた。代表的文学作品としては、ゲーテ(Goethe, 1749-1832 )の「ファウスト」がある。画家としてはダヴィド(David, 1748-1825 )、アングル(Ingres, 1780-1867 )を挙げることができる。

③ ロマン主義(Romanticism)

形式を強調する古典主義に対する反動として起きたのがロマン主義であるが、人間の内面的な情熱を端的に描こうとする十八—十九世紀の芸術の傾向をいう。作家のユゴー(Hougo, 1802-85 )、詩人のバイロン(Byron, 1788-1824 )、画家のドラクロア(Delacroix, 1798-1863 )などを挙げることができる。

④ 写実主義(Realism)・自然主義(Naturalism)

写実主義は現実主義ともいう。これはロマン主義に対する反動として現れたものであり、現実をありのままに描写しようとするものであって、十九世紀中ごろから後半にかけて現れた。画家のコロー(Corot, 1796-1875 )、ミレー(Millet, 1814-75 )、クールベ(Courbet, 1819-77 )、作家のフロベール(Flaubert, 1821-80 )などがその代表である。写実主義はさらに実証的・科学的傾向を強めて自然主義へと移行した。自然主義の作家の代表としてゾラ(Zola, 1840-1920 )を挙げることができるが、美術上においては写実主義と自然主義の区別はなかった。

⑤ 象徴主義(Symbolism)

象徴主義は現実主義や自然主義への反動として、十九世紀後半から二十世紀初頭にかけて起きたもので、従来の伝統や形式を捨てて、感情を象徴によって表現しようとした文学の一派である。詩人のランボー(Rimbaud, 1854-91 )が代表であるといえる。

⑥ 印象主義(Impressionism)

これは瞬間的にとらえられた姿こそ事物の真実の姿であるとして、個別的、瞬間的な形や色彩をとらえようとするものであった。十九世紀の後半に、フランスを中心に展開された運動である。マネ(Manet, 1832-83 )、モネ(Monet, 1840-1926 )、ルノアール(Renoir, 1841-1919 )、ドガ(Degas, 1834-1917 )などがその代表的な画家である。

⑦ 表現主義(Expressionism)

印象主義が外から入ってくる印象を描き出すのに対して、逆に人間の内面の感情を外部に表現しようとするものが表現主義である。二十世紀の初頭に印象主義に対する反動として生じたものである。画家のカンディンスキー(Kandinsky, 1866-1944 )、マルク(Marc, 1880-1916 )、作家のウェルフェル(Werfel, 1890-1945 )などがその代表である。

⑧ 立体主義(Cubism)

二十世紀初頭の美術運動であって、その特色は幾何学的形体を単位とする構成にあるのであり、対象をいったん単純な形体に分解したのち、それを自己の主観によって再構成しようとするものである。その代表的な画家がピカソ(Picasso, 1881-1973 )である。

⑨ 統一主義(Unificationism)

それでは統一芸術論の創作態度はどのようなものであろうか。それは創造目的を中心として理想主義と現実主義が統一されたものであり、統一主義という(図7—3)。

統一主義は地上天国の実現を目標としているから現実を重視する。だから現実主義となる。しかし同時に、現実に生きながらも本然の世界に復帰するという理想をもっているから理想主義でもある。したがって現実と理想の統一が原理的な創作態度である。例えば、現実の罪悪世界の中で創造理想世界を憧憬しながら、苦難を克服していく希望に満ちた人間像を描くのが統一主義である。統一主義は神の心情を中心とした心情主義である。したがって統一主義は神を中心とした理想的な愛を表現するものとなる。そこにはロマン主義的要素も当然含まれる。しかし従来のロマン主義をそのまま含むのではない。男女の愛を描くとしても、神の愛、人類の真の父母の愛を中心とした理想的かつ現実的な男女の愛を描くのである。

ところで上記のいろいろな様式や流派を大別すれば、広い意味で現実主義と理想主義に分けられる。この場合の現実主義は、現実をありのままに描写するという意味の現実主義ではなく、ある時に「現在流行している流派」という意味の現実主義であり、また理想主義は、人間や世界を理想化して描写するという意味での理想主義でなく、その時の「現在の流派」に対して「未来志向的に新しく起こそうとする流派」という意味での理想主義なのである。したがって過去の流派は、どんなものであれ、初めは理想主義であったが、あとになってみな現実主義の立場になったのである。統一主義は、こういう意味での現実主義と理想主義の統一を意味する創作様式または創作態度である。

ところでこの統一主義の様式は、神の心情と創造目的を中心とした神の創造方式に似た様式であって、そこに作者の個別的な差異が現れるとしても、様式自体は永遠に変わりないのである。