共生共栄共義主義に関する学術研究の集成(13論文日本語訳と韓国語原文、後半部に要旨掲載)

PWPA International編

<目次>

Part 1 共義主義

1.共同倫理確立のための二つの前提  黄珍修  鮮鶴UP大学院大学校教授

  日本語  韓国語原文

2.統一政治思想としての共義論  金恒済  鮮文大学校教授

  日本語  韓国語原文

3.共義主義からみたグローバル社会のコスモポリタニズム  安妍姫  鮮文大学校教授

  日本語  韓国語原文

Part 2 共生主義

4.統一政治思想からみた所有:共生主義の「共同所有」と近代ユートピアニズムの「共有」  金恒済  鮮文大学校教授

  日本語  韓国語原文

5.統一教の共生主義経済論に対する考察  ソン・チュソン  鮮文大学校講師

  日本語  韓国語原文

6.統一思想の共生主義に基盤をおいた共同所有経済思想に関する研究  谷口まさひろ  鮮鶴UP大学院大学校博士課程

  日本語  韓国語原文

7.経済民主化に対する統一思想的考察  李ジュンソク  鮮文大学校博士課程

  日本語  韓国語原文

8.統一思想の共生主義の観点からみたベーシックインカムの研究  金玟志  鮮文大学校教授

  日本語  韓国語原文

9.共生主義から見た協同組合の経済運動に関する考察  姜和明  鮮文大学校教授

  日本語  韓国語原文

Part 3 共栄主義

10.天一国の共生共栄共義主義国家論に関する研究  黄珍修  鮮鶴UP大学院大学校教授

  日本語  韓国語原文

11.統一思想に基づく新しい政治思想の研究:自由、平等そして愛  矢ケ崎秀則  鮮文大学校教授

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12.統一思想の共栄主義でみた共和主義談論  金玟志  鮮文大学校教授

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13.共生共栄共義主義で見た共栄政治の政策原則と選挙制度に関する研究  任ヒョンジン  鮮鶴UP大学院大学校教授

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共生共栄共義に関する学術研究の集成の論文要旨

Part 1 共義主義

1.共同倫理確立のための二つの前提 黄珍修    鮮鶴UP大学院大学校教授

統一思想は理想社会の基本理念として共生共生共義主義を提示し、その根幹となる共義主義の定着のために、共同倫理の確立を迫る。本論文は、価値と規範の不可分性、および規範に対する価値の優先性を統一思想の観点から把握した後、万民が従うことができる共同倫理確立に必要な普遍的価値の共有のために、次の二つの前提を提示する。最初は、すべての人間に普遍的欲望が内在しなければならないという点であり、二番目は、その欲望を充足させることのできる対象の性質が存在しなければならないという点である。本論文では、最初の前提と関連して、統一思想の心情の概念を通して、全人類は愛を通して喜びを追求しようとする、抑えることのできない根源的欲望を持っていることを提示する。また、二番目の前提と関連して、他人の完全性と幸福によって心情の欲望が充足されることを提示しながら、その欲望の充足地点から普遍価値および共同倫理が立てられることができる可能性が開かれることを明らかにしている。

2.統一政治思想としての共義論   金恒済    鮮文大学校教授

 本稿は、統一教会の政治思想の土台を成している共義論についての研究の一端である。統一教会は未来社会についてのイデオロギーとして共生共栄共義主義を述べているが、これは包括的に統一教会の政治思想を述べているのでもある。したがって、統一教会の政治的イデオロギーは共生共栄共義主義の各々の共生論と共栄論、そして共義論に根拠があるということができる。その中で共生主義と共栄主義の土台を成している共義主義を政治思想的に調べてみることにより、今までなされた共義主義をより深くすることのできる共義論を披歴しようと思う。さらに、今日の社会が解決しなければならない現実問題の土台、つまり政治思想的土台の一端を批判的に省察しようと思う。これはまた統一教会が解決しなければならない現実問題の中の一つの政治参与のための政治倫理的態度を調べてみることにもなる。

 このような研究の目的を達成するために、まず「共義」の含む意味を「公義」と「正義」に照らし合わせてみて統一思想要綱で言及されている「共義」に関する哲学的論議を整理しようと思う。さらに、統一教会の共義論をロールズとロールズ以後の正義に関する論議に照らし合わせて説明しようと思う。このような試みで得られた統一教会の政治思想としての共義論は、ロールズ以来論議されてきた自由と平等の問題を政治的に解決しようとする現代の哲学的野心と一致する。共義論はロールズの自由主義的平等主義とは異なり、自由主義的家庭共同体主義ということができる。

3.共義主義からみたグローバル社会のコスモポリタニズム

                  安妍姫    鮮文大学校教授

この論文は、グローバル社会の世界共同体理論であり世界倫理談論として再照明されているコスモポリタニズムの主要な特徴と限界を調べてみて、共生共栄共義の理想社会を追求する統一思想の共義主義がコスモポリタニズムの問題にどのような代案的観点を提示することができるかを調べてみた。最近の地球化時代の世界市民主義談論の核心は、個別的存在をそれ自体として認め、他者を普遍性の論理で画一化したり、違いを本質化して他者との真正なる疎通を源泉的に排除しないで、他者との「共に生きていくこと」のための責任ある行動を追求することである。しかし、個人的、地域的、国家的利害関係が衝突するとき、このようなコスモポリタン倫理がさらに根本的な価値や実践的原理で作動することは簡単ではない。国家が普遍的愛、人類愛を積極的に実践する行為者となることは現実的に難しい問題である。そうだといって、コスモポリタニズムが個人的な倫理や道徳性の問題にだけ制限されるとき、社会的次元で担当しなければならない共同体的地平が十分に開かない。ゆえに、正義、同等性、平和のようなコスモポリタン倫理と価値が個人的にも制度的にも実現されるためには、多数の市民の心、目的、欲望と意志を動かして共感と連帯の感受性を刺激することができなければならない。

 このようなコスモポリタニズムの難題を解決する糸口を探して地球村時代の人類の切迫した課題として、近づいてくる世界共同体を実現するための理論的模索として本稿は統一思想の共義主義が提示する三つの重要な洞察に注目した。まず、世俗的世界市民主義の談論で提議されてきた宗教的世界市民主義についての批判や憂慮にもかかわらず、統一思想が指摘しているように、共義と平和の世界を実現するにおいての宗教の潜在力と役割は看過することはできず、かえって必須不可欠な要因であるという点である。二番目に、共義主義の根幹である神の真の愛から個別性を尊重しながら共に生きていくために要請される普遍性の糸口を発見することができる。すべての愛の根源であり志向点である神の真の愛の、超越的で縦的で垂直的な次元を導入することによってコスモポリタニズムの難題である個別性、多元性と普遍性、統一性の調和機能性が開かれるという点である。三番目に、統一思想の共義主義は宇宙的愛の学校としての家庭の役割を強調する真の家庭主義に根拠をおいているが、これを通して世界市民主義が個人を超え社会的で実践的運動として拡張されることができる具体的な基盤になることができる点である。神の下の人類一家族を主唱する統一思想の真の家庭主義は、自分の父母兄弟を愛しながら全人類に対する愛を学び、全人類に対する愛を通して自分の父母兄弟を愛することができることを教えるからである。すべての家庭は世界市民的家庭であり天宙的家庭であるという統一思想の真の家庭主義は、家庭を基盤とする個人の倫理が社会運動に拡張され得る論理を提供することができる点である。

Part 2 共生主義

4.統一政治思想から見た所有:共生主義の「共同所有」と近代ユートピアニズムの「共有」              金恒済    鮮文大学校教授

 所有についての政治思想的思惟は、人間の歴史の始まりからあったと言っても過言ではない。なぜなら、人間が生存しようとすれば、他の人と共に生きなければならず、これは人間が社会的関係で生きていく存在であるという点を述べていることであるからである。しかし、所有が歴史的過程で私的所有(private ownership)と共同所有(common ownership)に区分されて現れ、私的所有に対する共同所有の本格的政治思想的論議は近代ユートピアニズムに始まったということができる。近代ユートピアニズムに至り初めて古代社会から存在してきた私的所有、つまり私有財産制度の弊害を改革するための論議が始まったからである。

 プロレタリア共有のイデオロギーが終焉を告げた今日の人類は、新自由主義という新しい私有のイデオロギーに直面している。私有の極大化と世界化をもくろむ新自由主義の波に人類は直面しているのである。そうだといって共有のイデオロギーが完全になくなったりすることはない。共有のイデオロギーは人類が掲げてきた代案的理想であるからである。たとえ共有という代案的理想が一時的な試練に直面しているとしても、永遠になくなるということはない。

 『統一思想要綱』に出ている共有のイデオロギーは共生共栄共義主義と呼ばれている。共生共栄共義主義は、『原理講論』で主張する理想社会、あるいは理想世界の思想でありイデオロギーである。また、地上天国と説明される完全社会についての理念でもある。

 このような共生共栄共義主義だが、『統一思想要綱』ではその中の共生主義というイデオロギーに比較的簡単ではあるが所有に関する意味ある陳述が入っている。ここでは、共生主義の共同所有の概念をより政治的に整理するために、西洋の近代ユートピアニズムの共有思想の一旦と比較検討しようと思う。さらに、共生主義の共有思想が今後人類の生活についての一つの代案となることができるかを展望してみようと思う。

 共生主義の「所有」は、私的な適正所有を認めながらの共同所有を主張している。これは完全共有を主張する共産主義を現実的に克服する点で大きな意義がある。また、統一政治思想としての共同所有は、西洋近代の穏健な中道的ユートピアニズムの共有思想と物質的所有面では似ているが、心的所有という面では差異があるといえる。人間観においても、共生主義と近代ユートピアニズムは異なる。近代ユートピアニズムが人間を罪人とのみ把握するのに対して、共生主義では人間が良心をもつ神の創造物であると同時に堕落によって罪悪をももつ存在と把握する。ただ、共生主義で主張する共同所有が近代ユートピアニズムが歴史的に経験してきた試行錯誤を克服することができる思想になり得るかは実践にかかっている。

5.統一教会の共生主義経済論に対する考察

                  ソン・チュソン 鮮文大学校講師

 本稿は、統一教会の共生主義経済論が現実的な経済談論へと一歩進み出るための研究である。統一思想で提示する共生主義は、21世紀のジャングル式資本主義、金融資本主義、新自由主義経済システムが看過してきた、倫理的責任と透明性、責任性を補完することができる論理であり、世襲資本主義の弊害と影に対する代案を提示することができる理論的根拠を提供するにもかかわらず、現代の資本主義の属性と影響に対する言及が不完全であり、現実性のある政策提案、法律制定、行政規制が前提とされなければ実現不可能な談論に留まっているのが現実である。これを克服するためには、統一思想の共生主義理論と経済システムが統一教会の信仰共同体から出発しなければならず、共生主義経済システムが現実的な代案の経済システムとしての可能性を認められるためには、学際的研究(interdisciplinary study)と協業(collaboration)が実現されて現代の経済理論と経済システムに新鮮な談論を提供することができる理論的根拠を提供しなければならない。

6.統一思想の共生主義に基盤をおいた共同所有経済思想に関する研究

                谷内まさひろ  鮮鶴UP大学院大学校博士課程

 統一思想では、利潤が動機となる経済思想に対する代案として、共生主義を基盤とする経済思想を提示する。共生主義では、私的所有に対して共同所有を提案する。共同所有思想を基とする経済主体の経済参与が共生主義に基盤をおく経済になるだろう。本研究は、統一思想の共生主義の中で述べている共同所有に関する思想とそれを基とした経済思想を考察しようと思う。

 共生主義に基盤をおく共同所有思想は、現代経済を神の心情を中心として運営する思想であり、人間が神様を代身して万物世界を共同管理しようとする思想である。市場経済を支える私的所有を認めはするが、統一思想に立脚した私的所有を通した共同所有を実現する思想が共同所有思想である。筆者は、共同所有思想を統一思想の真の愛、授受作用、新生体の原理に従って無条件的条件付き、双方向性、発展性で構成した。真の愛で自分の所有物を他の人と授け受けるようにする共同所有思想を基礎として経済に参与するとき、共生主義に基盤をおく共同所有経済思想が形成される。

 共同所有経済思想を基礎とする政府は、共同所有を成すために市場経済制度を設計して政策を遂行する。今日の経済において貧富の格差を改善するためには、富裕層を中心とする市場経済を、共同所有思想に立脚して市場経済の枠を設計しなおす必要がある。それが経済的成果をすべての経済主体が享有することができる社会であり、すべてが公平に生きることができる善循環の社会である。言い換えれば、現代の株主資本主義を、すべての利害当事者のための資本主義に転換するのである。共同所有経済思想を実現することは共生主義を実現することであり、神の心情を現実の世界で実現することである。

7.経済民主化に対する統一思想的考察

                  李ジュンソク 鮮文大学校博士課程

 現在、韓国の政治圏は与野を問わず経済民主化を主要政策として採択している。経済民主化論議が社会の熱いイシューとして浮かび上がるようになった背景には、経済成長の停滞、景気の不況、失業率の増加など持続的に悪化する昨今の経済状況がある。経済的脆弱階層が増加しながら、富の両極化が深まって、いわゆる財閥と呼ばれる高所得層に対する再分配の要求が高くなっているのである。経済民主化は、経済分野も政治分野のように民主主義的要素を投入して資本主義の両極化問題を解決しようとする試みであり、我が国の憲法119条2項でもその根拠を見ることができる。経済民主化の主要な主張によれば、経営者(資本家)と従業員(労働者)間の力の均衡のために、労働組合の力をもう少し強化しなければならず、国家は福祉制度の拡大、財閥規制、税金の累進課税制度などの各種手段を動員して富の再分配に積極的に介入しなければならないという。

 しかし、統一思想の観点から見るとき、このような経済民主化法案では富の再分配問題を根本的に解決することは難しい。まず、統一思想は、民主主義を理想的体制ではない蕩減復帰時代の過渡的な体制と見ており、すべてのことを多数の合意だけで決定する父母のいない不安な兄弟主義とみなしてその限界を明らかにしている。また、富の不均衡は、個性真理体としての価値実現のための自然な結果であり、個人別適正所有の水準、また良心だけでなく連体としての格位にしたがって異なるので、労組や国家の力で個人別適正所有の水準を画一的に強制しようとする試みは、誰に対しても満足させることは難しい。統一思想は、多数の力を通して少数の適正所有を強制する経済民主化よりも、全人類的プロジェクトの展開を通して人間の良心と連体意識を目覚めさせる、いわゆる経済平準化運動を提案するが、このような運動が共生共栄共義主義の実現のための願わしい方向だと信じる。経済民主化から経済平準化への社会的関心の転換のための財界、政界、言論界の有機的協力が要求される。

8.統一思想の共生主義の観点から見た基本所得(ベーシックインカム)の研究

                  金玟志    鮮文大学校教授

 本研究は、統一思想の経済観である共生主義の観点から基本所得を考えてみた研究である。このために『統一思想要綱』で提示された共生主義の核心概念である適正所有と基本所得に関する論点を整理した。これを通して共生主義から基本所得を考えることができるいくつかの示唆点を得ることができた。統一思想的観点から基本所得の概念を見るとき、まず、基本所得は、実施範囲と実施程度の差異はあるが、基本的に私的所有を認める基盤の上に生存のための基本所得を提供する制度であるので、概念的に肯定的な検討をすることができると見える。二番目に、基本所得は、生存のための労働ではない喜びのための労働、営利追求のための経済活動ではない共同体のための非営利的活動に労働の方向を転換するという面で、共生主義で提示している愛と感謝の未来的経済活動のための制度として検討することができる可能性があると見える。三番目、基本所得の導入過程は、政策的実現を通した段階的模索と論議、国民投票や選挙投票を通した民主的な過程を経るという面で、共生主義経済制度の導入のための過程として示唆点を得ることができると見える。四番目、基本所得の導入と適用が趣旨に適合するように成されるためには根本的に成熟した市民意識が要請され、適正所有実現のために神の真の愛を中心とする良心回復のための教育が並行されなければならないという面で示唆点を得ることができた。

9.共生主義から見た協同組合経済運動に関する考察

                  姜和明    鮮文大学校教授

 本論文は、統一思想の理想経済論である共生主義の観点から協同組合が持つ理論的含意に対して考察してみることに目的がある。これを通して真の愛に基盤をおく連体の経済を夢見る共生主義を現実化するための経済組織として、協同組合が意味のある価値を持っていることを明らかにしようと思う。協同組合は、自由な市民が生活で感じる共同の必要を協同で解決しようとして作った自発的な結社である。協同組合経済運動は、具体的な生活の場である地域を中心として市民主体が共同の目的と関心のために集まり、共同所有と民主的運営に基礎をおいて日常生活の問題を共に克服していく互恵の経済を志向する。資本よりは人が、経済よりは協同と共同体の価値がもっと強調される協同組合経済運動は、人類一家族の観点から万民の福祉に寄与する真の愛の経済を実現しようとする共生主義と相通ずる面が多いと考えられる。ゆえに、共生主義の実現化のために協同組合経済運動を積極的に検討してみる必要がある。

Part 3 共栄主義

10.天一国の共生共栄共義主義国家論に関する研究

                  黄珍修    鮮鶴UP大学院大学校教授

 本論文は、世界平和統一家庭連合が志向する理想国家、つまり「天一国」の国家論に関する試論的論議を共生共栄共義主義の観点から提示することに焦点を合わせようと思う。現代の国家論の中で「文化的国家論」は、国民が投影する国家の全体的観念が国家の実在として再現され、そのように再現された実在の中で再び国家の表象が国民の心の中でさらに具体的に共有されていくときに国家が動的に生命力を持って維持、発展することができると見る。このような論理は、天一国に対する概念設定を持続的に苦悶していく中で投影された天一国の観念を実質的な生活の様式としてつくっていこうとする世界平和統一家庭連合の現実と密接な関連がある。

 統一思想が提示する共生共栄共義主義は、天一国国民が生活の現場で天一国の全体観念を心の中で明確に描いて生きていくことができるように導く理念的標柱の役割をする。共生共栄共義主義は、理想社会の経済、政治、倫理思想であり、神の心情に似て全体目的をより重要視する愛の心をもった人間が成す社会がどのような方式で運営されるかをまず投影してみて、これを現実に適用して現資本主義と民主主義制度を運営する方式の質的な変化を追求する方式をとる。共生共栄共義主義の精神が実際の天一国を生きていく国民の生活の場で反復的に、そして持続的に経験されていくにつれて、天一国のビジョンは理想に終わるのではなく、国民の生活それ自体として現れることができる。本論文は、このような共生共栄共義主義が天一国国家論の根幹を成していることを明らかにしている。

11.統一思想に基づく新しい政治思想の考察:自由、平等そして愛

                  矢ケ崎秀則  鮮文大学校教授

 思想は常に時代的な課題の解決を目的として出現し、すべての課題は時代と環境によって提起された。20世紀後半の世界は大きく民主主義と共産主義という両陣営に分割された。万が一、民主主義と共産主義がそれを選択した人々に豊かな幸福を与えて十分な恵沢を人類に与えたなら、第3の新しい理念は生まれてくる必要もないであろう。しかし、共産主義は、一時は世界の3分の1を凌駕するときもあったが、20世紀末に共産主義の代表国家であったソ連の崩壊で象徴されるように、人類に豊かさと幸福はおろか、貧困と抑圧をもたらし実態的にも思想的にも破綻してしまった状態である。では、民主主義はどうであろうか。共産主義に勝ったとむやみに喜ぶことができる状況ではけっしてない。民主主義陣営を代表する国家がアメリカであるならば、今日アメリカで現れている各種の現象は民主主義の限界を如実に見せている。

 ところで、民主主義と共産主義は多くの面で差異がありながらも、同時に国家を超越する理念であるという共通点をもっている。共産主義がソ連の専有物ではないように、民主主義もアメリカの専有物ではない。そのような意味で21世紀、地球村という表現が使用されるほど国際化が進展している今日、新しい思想も民族と国家を中心とした理念ではだめで、国家を超越した理念でなければならないということは言うまでもない。また、民主主義であれ共産主義であれ多くの問題点を抱えているが、その中にも今日に至るまで政治思想が成し遂げた結実ということができる長所もあるということを看過してはならない。特に、民主主義は今日も依然として多くの国民の支持を得ている思想であり、民主主義の思想的役割を考えてみるとき、新しい政治思想はどこまでも民主主義を土台としたものでなければならない。そして、民主主義を新しい次元に昇華させ、共産主義を克服するものでなければならない。そのような意味からまず民主主義と共産主義の二つのイデオロギーを再検討し、民主主義と共産主義の問題点と思想的限界を分析しながら、同時にこれらを結合することができる新しい思想を追求しようと思う。

 本論文は、2000年6月に鮮文大学校神学部で発表した論文を基礎として当時は時間の関係上十分に論証できなかった部分、未熟な部分を補充しながら、特に、自由、平等、愛という政治思想として重要な概念を考察したものである。

12.統一思想の共栄主義でみた共和主義談論

                  金玟志    鮮文大学校教授

 どのようにして代議制民主主義の限界を克服し、国民が参与する政治を実現するか。本論文は、最近活発に進められている共和主義の談論を通して、統一思想の共栄主義の論議点を整理して代案を提示してみようとした。統一思想の政治理念である共栄主義は、共和主義に提議される批判的疑問に対して次のように答えることができる。最初に、共栄主義は市民の政治参与のために抽選制選挙制度などの代案的選挙制度を提案し、共同・均衡・責任政治を追求する。二番目に、共栄主義の公共愛は法的規制だけでは育成することができず、宗教共同体の教育と活動を通して育成することができる。三番目に、共栄主義は全体目的と個体目的の調和を追求し、全体目的を個体目的よりも優先視することによって共同体のために個人の自由を制限することができる哲学的根拠を明確に提示している。四番目に、共栄主義は人格の核心を愛と見て、家庭共同体で子女・兄弟姉妹・夫婦・父母の愛を経験することによって公共愛を育成することができると説明する。このような応答を出発点として、共栄主義の政治哲学的論議は今後さらに具体化しなければならないだろう。

13.共生共栄共義主義で見た共栄政治の政策原則と選挙制度に関する研究

                  任ヒョンジン 鮮鶴UP大学院大学校教授

 解放以後、韓国政治は保守と進歩が絶え間なく激動する分裂と対立の歴史を経験してきた。政治理念と世代、地域などの特性によって徒党に分裂して対立してきた韓国社会の政治現実を正しくつかみ、『統一思想要綱』の共生共栄共義主義理念を基礎として理解と配慮、疎通と協力を志向する大統合に進んでいかねばならない時である。

 本研究は、共生共栄共義主義理念を基礎として、韓国社会の政治的改革の方向を模索するためのものである。特に、韓国の選挙制度に対して探求しながら個人よりも社会と国家、さらには全人類のための愛の精神である公共愛に基盤をおく共栄政治を概念化し、これを基とする選挙制度の原則と形式を調べてみた。

 現代、代議制民主主義政治の核心機構である選挙制度が作動する機構を省察し、特に、韓国の選挙制度がもっている、共栄政治から見た問題点を導き出し、解決法案を探求した。このような過程を通して神の国をこの地上に具体的に実現しようとする共生共栄共義主義理念を深く論議した。