7芸術論 社会主義リアリズム

(一) 社会主義リアリズム

共産主義の革命運動において重要な役割を果たしたものの一つに芸術活動があったが、その創作方法が社会主義リアリズムである。では社会主義リアリズムとは、いかなるものであろうか。レーニンは、芸術はプロレタリアートの立場に立つものでなくてはならないと次のように述べた。

芸術は人民のものである。芸術のもっとも深い根源を広範な労働者階級におかなければならない。……芸術は彼らの感情や思想や要求を基礎とし、またこれらのものとともに成長してゆかなければならない(15)。

文学は党のものとならなければならない。……無党的文学者をほうむれ! 超人文学者をほうむれ! 文学の仕事は全プロレタリア的仕事の一部、すべての労働者階級のすべての意識的な前衛によって運転される一つの単一な、偉大な社会民主主義的機械の「歯車とねじ」にならなければならない(16)。

また社会主義リアリズム文学の創始者ゴーリキー(M. Gorkii, 1868-1936 )は、社会主義リアリズムについて次のように述べた。

われわれ作家にとっては、資本主義の汚い犯罪のすべてを、その卑劣な血まみれの意図のすべてをはっきりと見ることのできる、またプロレタリアートの英雄的な活動の偉大さのすべてを見ることのできる、その高い観点に——ただその観点に立つことが、生活的にも創作のうえでも必要である(17)。

作家は現代にあって同時にふたつの役割、[社会主義に対する]助産婦と[資本主義に対する]墓掘人の役割を演ずる使命を帯びているのだ(18)。

社会主義リアリズムの主要な目標は社会主義的な、革命的な世界観、世界感覚を鼓吹することにある(19)。

つまり詩を作るのも、小説を書くのも、絵を描くのも、すべて資本主義の犯罪を暴き、社会主義を誉めたたえるためになすべきであり、読む人、見る人が、正義心に燃えながら、革命に奮い立つような作品を作らなくてはならないということであった。

一九三二年、スターリンの指導のもとに、ソ連芸術家によって社会主義リアリズムが定式化され、文学、演劇、映画、絵画、彫刻、音楽、建築など、すべての芸術の分野に適用されるようになった。その主張は次のようであった。

① 現実をその革命的発展において、歴史的具体性をもって正確に描くこと。

② 芸術的表現と社会主義精神におけるイデオロギーの革新、および労働者の教育という課題を合致させること。

では、このような社会主義リアリズムを生じせしめた理論的根拠は何であろうか。それはマルクスの「土台と上部構造」に関する理論であった。マルクスは『経済学批判』の序言で、次のようにいっている。

この生産諸関係の総体は社会の経済的機構を形づくっており、これが現実の土台となって、そのうえに、法律的、政治的上部構造がそびえたち、また、一定の社会的意識諸形態[芸術を含む]は、この現実の土台に対応している(20)。

またスターリンは「土台と上部構造」の理論を次のように説明している。

上部構造はうまれでてくると、最大の能動的な力となり、自分の土台がかたちづくられ、つよくなるように能動的に協力し……。上部構造が土台によってつくられるのは、土台に奉仕するためであり、土台がかたちづくられ、つよくなるのを能動的に援助するためである(21)。

上部構造は、ある経済的土台が生きてはたらく一時代の産物である。だから、上部構造が生きているのは長いことではなく、ある経済的土台の根絶とともに、根絶され消滅する(22)。

以上を総合し要約すると、「共産主義芸術は、資本主義制度とその上部構造である政治、法律、芸術などを根絶させることに積極的に協助しなければならないし、共産主義社会(社会主義社会)では労働者を教育しながら、その経済体制の維持強化に積極的に奉仕せねばならない」という意味になる。このような理論を根拠として、社会主義リアリズムが立てられたのであった。